The Gentle Supporter
のんびり湯守
急がない、騒がない、でもちゃんとそばにいる。
図鑑説明
急がない、騒がない。けれど誰かの隣には、いつのまにか湯守がいる。手の届く範囲の湯と人を、温かいまま保つのが得意な人だ。胸に並んだ五つのつまみのうち、協調のひとつだけが最初から右いっぱいに振り切れている。安定のつまみも、ぴたりと止まったまま動かない。本人はそれにも気づかない。誰かに「どこでもいいよ」と笑い、頼まれごとも「いいよ、やっとくね」と気負わず受ける。引き受けたことを、根に持たない。我慢しているのではなく、合わせること自体が苦ではない。だから湯守の優しさは、すり減らずに長く続く。湯守が腰を落ち着けると、その一角だけ空気がゆるむ。誰も評価されず、急かされず、張り合わなくていい。足元から立つ淡い湯気のように、張りつめた場の温度がそっと下がっていく。気難しい客の隣という難しい席も、難しいと思わずに務める。嫌なことを引きずる時間は短く、たいていは一晩湯につかれば水に流れる。弱点は、断るのが後手に回ること。「で、自分はどうしたい?」が迷子になり、相手の「もう限界」のサインを軽く見ることもある。それでも、たまにこぼれる小さな「ここがいい」を、隣にいる人はちゃんと喜んで拾い上げる。
エピソード
- 01
湯加減は、いつもの温度
湯守の桶の湯は、熱くも温くもない。背伸びをしない、手の届く範囲のいつもの温度だ。新しい入浴剤も流行りの湯も追いかけない。行きつけの香りといつもの木桶で、毎日まったく同じ湯加減を積み上げる。常連が「ここの湯はいつ来ても同じだね」とこぼすと、湯守は半目のまま「それがいちばんでしょ」とだけ返す。変わらないことを、湯守は手間をかけて守っている。
- 02
誰かが、勝手に元気になって帰る
湯守は、ただ番台に座って話を聞いていただけだった。仕事で疲れた客が、ぽつぽつと愚痴をこぼす。湯守は遮らず急かさず、「まあ、そういうこともあるよ」と相づちを打つ。正そうとも、励まそうともしない。それでも湯から上がる頃には、客のほうが勝手に肩を回して「また来るよ」と帰っていく。湯守は不思議そうに見送って、自分は何もしていない、という顔のまま手ぬぐいを絞り直す。
- 03
閉店後の、ひとり湯
客がみな帰り、暖簾を下ろした夜更け。湯守はやっと自分の番だと、誰もいない湯にゆっくり身を沈める。人に合わせ続けたぶんを、ひとりの静かな湯で取り戻していく。にぎやかさより、この気心の知れた湯との時間が湯守の充電だ。頭にのせた手ぬぐいの上では、湯の縁にきた小さな鳥まで、一緒に半目でとろんとしている。本気で怒った日がいつだったか、湯守はやっぱり思い出せない。
関係
宴会部長が「今日、湯のあと飯行こうよ、もう店押さえた」と暖簾をくぐってくる。湯守は半目で「いいよ」と腰を上げる。堅実さも動じなさも同じ二人で、違うのは社交の元気だけ。にぎやかな輪へ連れ出してくれる相手に、湯守は帰り着ける静かな湯加減を返す。気を使い合わない、湯加減のよい相棒だ。
忍者が湯守の仕事を一目見て「ここ、桶のへりが少し欠けてる」と率直に指摘する。湯守は「まあいいか、使えるし」と動じずに流してしまう。細やかに気づく相手には、その『まあいいか』が『ちゃんと見ていない』ように映る。だから、もめ事の作法が噛み合わない。ただ違いが分かれば、忍者の目が湯守の見落としを拾い、湯守の湯気が忍者の張りつめをほどく。
